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伝統芸能も昔は大衆芸能

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落語は敷居が高い芸術ではなかった

僕は今、落語の芸術学という本を読んでいます。

落語の言語学 (平凡社選書)
野村 雅昭
平凡社
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タイトルからも分かる通り、落語における言語感覚について論じています。落語における言語空間からはじまり、前置きの存在意義、オチの種類など、落語におけるある種の法則のようなものについて論じています。まだまだ読んでいる最中ですが、なかなかに面白いです。落語には主に江戸落語と上方落語がありますが、本書は江戸落語について論じています。

さて、この本の冒頭において、筆者はこのようなことを述べています。

落語と落語家のことばのかかわりで、もっともおおきな問題は、以前とはちがい、現在の落語家は東京出身者とはかぎらなくなっているようである。(中略)すでにみたように、かつては、落語の中の人のことばと、落語家のことばとはかなりのところで重なっていた。しかし、現在では、落語の中のことばと、落語家のことばとは縁のない者になろうとしている
-落語の言語学 p27より抜粋

落語の中の言葉と落語家の間隔の乖離。僕は筆者の問いかけにはっとさせられました。伝統芸能という言葉に見られるように、現代の我々からみた落語は格式高い、由緒正しき文化として一線を画してしまいがちです。しかし、元を正せば、落語とは東京の下町から発生した文化であり、言葉遣いも、物語も、当時の民衆の感覚と完全に合致していたはずなのです。民衆の言語感覚が変化してしまったばかりか、肝心の演じ手すらも言語感覚の齟齬が生まれてしまっている。

そういった意味で、昔と今では「落語」というものの在り方は異なるのです。

 


クラシック音楽の歴史

この現代の感覚と芸能の乖離という事象は音楽にも当てはまるのではないでしょうか。クラシック音楽を例にとって考えてみましょう。

昔、音楽家は貴族というパトロンに仕えていました。貴族のために音楽を作っていたのですね。貴族はよくも悪くも積極的な欲求を持つ聴衆でありました。それは、貴族自身も演奏を行うことができたためです。つまり、音楽家と聴衆の間には共通の音楽文法があったと言えます。

その後、貴族の衰退とともに、ロマン派と呼ばれる時代に突入します。つまり、貴族のために音楽を作るのではなく、自分自身が作りたい音楽を作るようになるのです。ベートーヴェンとかの時代ですね。そして聴衆は、貴族からその頃台頭してくる市民へとシフトします(ここで言う市民とは知的階級の市民であって、大衆ではありません)。市民の欲求に応える形で、華のある音楽が作られるようになります。

また、元来音楽家は音楽家の家系から排出されるのが常でしたが、19世紀に入るにつれ、音楽大学などが設立され、出自は問われなくなっていきます。音楽家シューマンは書籍商の子どもですね。

ここらへんの事情についてはヨーロッパ近代クラシック音楽史という本に詳しいです。

ヨーロッパ近代 クラシック音楽史―ロマン派のはじまりとその終焉
遠山 一行
東京音楽社
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話がそれてしまいました。一口に"クラシック音楽 "と言っても、時代の変遷とともに、作り手、聴き手ともに変化しているのです。時代にそぐう形での変貌を遂げているのです。

そして、幾何かの時が経った今、現代のクラシック音楽の演奏者はこのような時代の楽曲を多く取り扱うのです。現代の、ましてや人種も異なる我々が、そのような西欧の音楽を奏でるということは、感覚の面で非常にハンディを背負っているといって過言ではないでしょう。以前ブログにクラシックは何故敬遠されるかということに関する文章を書きましたが、敬遠されるというよりは、感覚が異なるがために受け入れがたいのだろうと思います。


先述の落語の言語学の著者、野村さんは上記引用の問題に対して、明言を避けています。演奏者クラシック音楽を演奏する立場の者も、この感覚の齟齬については避けては通れない命題です。歴史などを紐解き、当時の作曲家の意図に少しでも寄せられるように努力するか、全く新しい価値を見出すか。いずれにしても、その試行錯誤の道程の結果が、現代の聴衆の感情を揺さぶることが出来るものでありたいですね。

「伝統芸能」という言葉に惑わされることなく、自身との感覚を見つめなおそうと決意しました。

 

追記

ロマン派の時代には「自分の作りたい音楽」と「聴衆が求める音楽」の乖離に悩む作曲家もいたようです。リストとか。そういった意味で、本質的に自由な音楽というのは商業として存在しえないのかもしれないですね。それはそれで悲しいことですが。

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